結局どちらが当選なのか?ーベネズエラ 大統領選挙とその背景ー

ラテンアメリカの文化

2024年7月30日 16:10

エルサルバドル国内でもベネズエラ難民を目にします。2024年7月に行われた大統領選ではマドゥロ大統領が再選を宣言し、国際社会(主に欧米諸国)から批判を受けています。他方、ロシア、キューバ、中国はマドゥロ再選に祝辞をあげています。左派政権が発足している近隣の大国コロンビア、ブラジルは事実に基づく結果であったのかを見守る姿勢を示しています。
ベネズエラはふたりの大統領、ふたつの国会があった時期もあり、ハイパーインフレ、GDPが 3 年で半減する経済破綻、400万人以上の難民の脱出があり、これらの問題がより深刻になっています。チャベス政権のあとを継ぐマドゥロ政権のこの先の行方は…
(トップ写真はこちらから引用https://www.milenio.com/internacional/quien-gano-las-elecciones-presidenciales-en-venezuela-2024

¿Quién ganó las elecciones presidenciales en Venezuela?
Conoce quién recibió el apoyo del pueblo venezolano en estas elecciones presenciales.

そもそもベネズエラとはどこにあるのか

世界最大の石油埋蔵量を有し、南アメリカ大陸の最北端に位置する国・ベネズエラ。コロンビア、ブラジル、ガイアナと国境をもっています。人口は3000万人ほど、面積は日本の3倍弱ですが、その多くをギアナ高地やアマゾン、アンデス山脈の山々が占めるため、人々が暮らしている地域は北部に集中しています。また、OPECの設立国でもあります。さらには美女大国としても有名です。

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美女大国としても有名なベネズエラ

故チャベス大統領を批判する報道が多いが そもそもどんな人か

ベネズエラ政治は90年代までは30年以上にわたり長期的に安定していました。アメリカのような二大政党制で、定期的に5年ごとに選挙が開かれ、その結果に基づく政権交代が行われるという意味で、民主的な政治運営が行われていたのです。しかし、90年代以降はそれが揺れ始め、チャベス政権誕生によって完全に崩壊しました。
当時の二大政党制は、安定性をもたらす一方で、新たに生まれてきた社会セクターを排除する側面もあったのです。伝統的二大政党やそれと結びつくセクターによる政治支配があまりにも強固であったため、特に貧困層は政治的意見を反映することができませんでした。
そのため80年代後半ごろから、既存の政治体制に対する不満が生まれてきたのです。同時に、汚職が蔓延した政治家たちに対する反発も高まり、伝統的政党やその政治家たちが「石油収入を支配している」という不満も強まっていきました。
そんな中、二大政党に属さないアウトサイダーとして1998年に当選を果たしたのがチャベス氏です。

チャベス大統領の毒舌といえば、世界の政治指導者の中で右に出る者はいないほどで、米国のブッシュ前大統領を「悪魔」呼ばわりし、資本主義や新自由主義を「人類の敵」とばかりにこき下ろす。チャベス政権は高騰する原油の販売で得た収入を、国内の低所得者層に分配を試みます。

毒舌 新自由主義の批判 貧しい人を助けたい気持ちに嘘はない?

チャベス大統領の毒舌といえばなかなかなもので。国連のスピーチの場で米国の当時のブッシュ大統領を「悪魔」呼ばわりし、十字を茶目っ気を入れてスピーチ台できったり、チョムスキー*の本『覇権か、生存か―アメリカの世界戦略と人類の未来』を片手に帝国主義を痛烈に批判するなどかなりの毒舌ぷり。(会場でアメリカ嫌いの国の参加者からか笑いが出てました)

*チョムスキー 米国の言語学者・哲学者

植民地支配やアメリカの影響に翻弄された歴史のある中南米でかつ、以前は搾取されてきた原油国だったというのもあるのでしょうか。
社会政策は持続性に欠けるバラマキ政策ともいわれていますが、貧困層の医療無料、学校無料は当然ながら貧困層に家を無料で配布していました。それのみならず電化製品まで配布しました。財源は当時価格が上がり利益があがっていた原油でした。

カリスマ「チャベス」の後継「マドゥロ」

敵も多いながらもカリスマ性をもっていたチャベス氏の路線をマドゥロは引き継いだ。彼はチャベスのやり方を基本的に大きく変えずにやろうとしたが、原油価格の低下、ハイパーインフレ、物資の不足と国民の生活は窮地においやられていくことに。貧困層にとっては生存にかかわるレベルの打撃を与えた。子供たちを中心に栄養不足から健康を害したり死亡するケースが増え、栄養失調で亡くなった5歳未満の子供は、2017 年の71 人から 2018 年には 194 人に増えたという*。

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Maduro 氏

*Maya, Maria Josefa. 2019. “Muertos de niños por desnutrición subió 173% en un año,” Hambrómetro, 20 de febrero.

大統領が二人という異例自体 マドゥロとグアイド2019年1月~

2018年マドゥロ政権の任期が終わるにあたって、反政府派の有力政治リーダーらの多くを政治犯として拘束あるいは公職追放など、政治的に排除し立候補できない状況にしたうえで大統領選挙を公示した。これに対して国内の反政府派、そして欧米諸国や米州機構(Organization of American States: OAS)、多くのラテンアメリカ諸国や日本も、そのような状況での選挙は公平で透明な選挙をうたった憲法や民主主義の原則に反するとして、選挙の中止を強く求めた。反政府派の政党連合である民主統一会議(Mesa de la Unidad Democrática: MUD)は、選挙に参加すると不正な選挙に正当性を付与することになるとして選挙をボイコットしたが、マドゥロ政権は選挙を強行し、再選された。
これに対して反政府派は、2018 年5月の大統領選挙は上記のとおり憲法や民主主義の原則に反するもので正統性がないとし、そのためマドゥロ大統領の任期が切れた 2019 年1月 10 日以降は正統な新大統領が不在であると主張した。そして「大統領が絶対的不在の状態が発生した場合は、その後連続した 30 日以内に普通・直接・秘密選挙を新たに実施する。新大統領が選出され就任するまでの間、国会議長が大統領の任につく」という条文に基づき、1月 23 日グアイド国会議長が暫定大統領への就任を宣誓したのである。

2023年 暫定政権の終わり

暫定政権はアメリカを中心とした西側政府の支持、マドゥロは中国・ロシアの支持を受けながらしばらく続いておりましたが、マドゥロ大統領が権力を維持する一方で、グアイド氏が国民の支持や反体制諸派をまとめる能力を示せずにいた自称・暫定政府は、影響力を失ってきて、ベネズエラ野党は暫定政権の解散に関する投票を行い自称政府を終わらせました。
次の2024年の大統領選に向けてこの体制を続けるより、方針を変えたほうがよいという判断だったのでしょうか。

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暫定政権のトップであったグアイド氏(2023年 ロイター/GABY ORAA)

そして2024年 大統領選挙

2024年7月30日現在、マドゥロ氏の再選発表に対して、野党側は不正を主張。欧米諸国も批判をしている。当然ながら中国とロシアは認めています。
ベネズエラをめぐっては大国の思惑がからんでいるといいます。
今後の動向に注目したいと思います。

坂口 安紀(2022) 「ベネズエラをめぐる大国の政策対応と思惑-米国・中国・ロシア」,LATIN AMERICA REPORT 2022Vol. 38, No. 2

https://www.jstage.jst.go.jp/article/latinamericareport/38/2/38_48/_pdf/-char/ja

その他参考

坂口安紀(2019 )ふたりの大統領の間で揺れるベネズエラ——これは「終わりの始まり」なのか?——LATIN AMERICA REPORT 2019Vol. 36, No. 1
https://www.jstage.jst.go.jp/article/latinamericareport/36/1/36_44/_pdf/-char/ja

坂口先生の本です

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