【ペルー・アマゾン】先住民のコミュニティ主体で行う森林管理の影響 大橋論文から考える

ペルー

2025年1月10日 18:55

本記事は学術論文の抜粋を含み少し読みづらくなっています。

2019年のブラジルアマゾンの火災の際には仏マクロン大統領が「地球の肺」と称したアマゾンの熱帯雨林。マクロンは当時「地球の20%の酸素を生産している」と投稿したが、研究者の意見はわかれており、「せいぜい6%だ(それでもすごいが)」いや、「アマゾン全体でみると酸素もつくるがその分二酸化炭素も排出するのでプラマイゼロだ」など様々な考えがありますが、それはさておき森林破壊を守ったほうがよいと直感的には思わされます。

他方、100万人を超すアマゾンの先住民の昔ながらの暮らしでおこなう焼き畑農業はよくないものとみなしたり、伐採を一方的に取り締まるだけではわかりやすい形で責任を誰かや何かに押し付けているような印象も受けます。

アマゾンの森林保護が国際的なイシューになっている中、違法伐採の取り締まりや森林の適切な管理をコミュニティの力(先住民の力)で解決する手法があります。住民に伐採を担わせることで、 乱伐を行う企業や出稼ぎ集団を締め出し、持続的な森林管理を実現すること、そして、住民が伐採権による収益 に頼らずにより高額な現金獲得の機会を得ることができるこの考え、一見よさそうに思えますが様々なことが生じているとのこと。
本記事では「大橋(2024)「木材資源をめぐる新たなコモンズの形成と長期的動態 ― コミュニティ主体の持続的森林管理という名の「伐採」を経て 」,アンデス・アマゾン研究. vol.8, 2024, pp.1-23 」のイントロ部分を紹介します。

コミュニティ主体の資源管理とは

地域住民が主体となって、森林を共有・共同管理する。共同管理のルールづくりの際に、利害関係を十全に行うことが必要である。また、林業以外にも、換金作物の栽培や、畜産、集会所・学校などのインフラ整備といった地域開発を同時に行うことを指します。
コミュニティー・フォレストリーにより、林業のための森林伐採は一定の制限に基づいて行われるので、森林破壊は止まる。また、林業以外の活動によって地域住民の福利厚生は改善することとなるという。
ただし、そのためには地図上の公的区分と一致する村(先住民共同体)の範囲、つまりは土地と森林の境界の明確化が外部者主導のもと行われるようになった。

アマゾンにおけるコミュニティ主体のコンセプトがもたらしたもの

アマゾンにはたくさんの民族がいるため、それぞれの考えや感覚は異なる。アッシャーは、アマゾニア先住民は同じ集団内においても、彼らが使う土地や資源の所有形態は、オー プンアクセスと共有資源の曖昧な部分に位置するものであったと指摘する[Ascher 1995]。
例えばワオラニの人びとは敵対関係にある他民族と明確な境界を持っている一方で、集団内で資源を共有しているという意識をもっていなかったが[Lu 2001:434]、そ れに対して、キチュアの人びとは、ゆるやかではあるものの、先住民小集団ごとのテリトリー意識を持っ ていたという指摘をした[Lu 2006:2010]。
どうしても土地の境界線やどこまで管理範囲なのかの線引きはコミュニティ主体の森林管理には生じてくるため、アマゾンの先住民に思いもせぬ影響を与えることは避けられない。

中央政府や国際機関はどうしても耳障りのよいふれフレーズを使いがち

今の森林管理の議論においては、「多様なアクターが関わる森林ガバナンスの実現」が当たり前 のように言われるようになった。しかしながら、椙本[2010:164]は「中央政府や援助機関は自らの存在 意義を高めたり、介入行為を可能にするような問題設定と解決策を用いる。聞こえのよいフレーズが、根本的な問題や地域に既存の人間関係を見えにくくしてしまうことに注意を払う必要がある」と警鐘を鳴らしている。

先住民共同体制度で先住民が伐採権の交渉を企業とできるようになったが…

それまでのペルーの中央政府は、海岸沿いの砂漠(樹木が自生しない荒れ地)は地下鉱脈という国家に とって膨大な利潤を見込める土地であるとする一方で、森林地帯(selva)の地下資源の存在には気づいておらず(なお現在では、石油や鉱物といった地下資源の存在が確認されている)、森林地帯を経済的価値 のない土地と見なし、重要視してこなかった。しかし実際には、1960 年代頃から、ブラジルからアマゾン 川を遡ってきた国外資本の企業によって、上流部となるペルーでも乱伐は行われていた。つまり、政府が 認識していなかっただけで、ペルーアマゾニアでの無秩序な開発はすでに進んでいたのである。 先住民共同体制度が導入されたことにより、森林の所有権を得た先住民は、土地の境界内に入ってきた 企業に対して伐採権料をめぐって直接に交渉することが法律上可能になった。その意味でこの制度は、先住民が森林から収入を得られるようにするための制度であるとも捉えられる。

しかし結果森林を管理を先住民に押し付ける結果になってしまった面も

しかし結果的に数十年後、 この制度は、広大大なアマゾニアの森林で進む企業による無秩序な伐採を、わずかな収入と引き換えに、地 元に住む先住民にコントロールさせることに、つまり森林管理を先住民に押し付ける結果になったのであ る。実際、国や自治体が違法伐採を取り締まるには膨大なコストが必要となるため、その実現は不可能に 近い。また、先住民共同体制度が導入されたとはいえ、土地の所有権は国家に帰属したままであり、先住民族はあくまでも土地の占有的利用権を付与されたに過ぎなかった。

ジピボ族の昔と先住民共同体として認定後の変化

シピボは、以前には、拡大家族の 2・3 世帯で小さな集落を築き、焼畑を行って は 4~5 年で移動をくり返しながら生活をしており定住はしていなかった。主な生業 としてシピボは農耕や漁撈、狩猟採集を行っていた。また生活圏である川沿いの氾濫原は、都市部からの 船舶によるアクセスが容易であることから、シピボはこの地域ではもっとも早い 1960 年代には市場経済 に取り込まれたという[Hern 1992]。交換を経済の基盤とし、親族間を中心とした食物分配を行うほか [Behrens 1986; Behrens 1992]、シピボ以外の民族であっても知り合いであれば「食べにおいで」と声をか ける日常的に食事招待をする慣習がある[Ohashi 2015]。以前は、人びとのあいだの権力関係は基本的 には平等であり、治療や呪術に加えて精霊とコンタ クトの取れるシャーマンだけが、逆らえない存在と して恐れられていた。

それが、先住民共同体として 認定された集落には行政村の役員である村長(jefe de la comunidad)、助役(teniente)、行政係(agente municipal)の選定が義務づけられるようになった

大橋論文のつづき

論文で取り上げるペルーアマゾニアのシピボの居住域において、土地に明確な境界が設定されるよう になったのは 1974 年以降と、ここ数十年のことであ る。さらに、村の境界の存在が人びとに強く認識さ れてきたのは、コミュニティ主体での持続的な森林管理が導入されてからである。

論文リンクはこちら

https://www.jstage.jst.go.jp/article/janams/8/0/8_1/_pdf/-char/ja

おわりに

土地の明確な境界が設定されたこと、森林管理をジピポ族が担うことになり何が生じたのを著者本人がジピポの集落に入り、インタビューが観察をし、丁寧にきりとった論文です。

おまけ NHKの特集

NHKでペルー・アマゾンの先住民の特集が放送されたとのこと。イゾラド族について取材をしたようです。

未知なる先住民 一挙出現の謎を追う アマゾン取材記 | NHK | WEB特集【NHK】始まりは1本の電話からだった。「アマゾンで10年ぶりに“イゾラド”が現れたらしい」去年8月、ある先輩ディレクターwww3.nhk.or.jp

参考文献

Ascher, William, 1995, Communities and Sustainable Forestry in Developing Countries. The International Center for Self-Governance, San Francisco, CA.

Lu, Flora, 2001, The Common Property Regime of Huaorani Indians of Ecuador: Implications and Challenges to Conservation. Human Ecology, vol.29, no.4, pp.425-447, DOI: 10.1023/A:1013193821187.

Lu, Flora, 2006, ‘The Commons’ in an Amazonian Context. Social Analysis, vol.50, no.3, pp.187-194, DOI: 10.1515/9781782384809-003.

椙本歩美、2010、「政策はなぜ実行されたか:フィリピンの森林管理における連携」、『ローカル・コモンズ の可能性』、三俣学・菅豊・井上真編、pp.144-169、ミネルヴァ書房。

Hern, M. Warren, 1992, Shipibo Polygyny and Patrilocality. American Ethnologist, vol.l19, no.3, pp.501-521, DOI: 10.1525/ae.1992.19.3.02a00050

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